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重量問題のせいでウォーアドミラルのスケジュールは不確かになっていたが、斤量を問わないというHの申し出は、Lに新たな選択肢をもたらすものだった。 これは同時に、決していいとはいえないLのイメージを向上させるチャンスでもあった。
というのもこの提案なら、彼はHが出してきた条件をすべてのむことができ、実際に得をしているのは自分の側であるにもかかわらず、要求の多い相手にいさぎよく譲歩した善玉という印象を、世間に与えることができるからだ。 最後にHの申し出には、初めから言い訳の材料が組みこまれていた。
かりにウォーアドミラルが敗れたとしても、それはレースの条件をHがひとりで決めたからだということができる。 これはどこから見ても拒絶しがたい申し出だった。
逆にこれはHにとっては、まさに身を切られるような思いでの申し出だったに違いない。 Lを交渉のテーブルにつかせようとするあまり、Hはシービスケットの勝機を危険にさらしていた。
Hとしては、レースは西海岸で開かれるほうがずっとありがたかった。 ニューヨークで走るとなると、シービスケットは5日間、520キロの列車の旅に耐えなければならない。
問題はそれだけではなかった。 シービスケットは一度しかそのコースを走ったことがない。
しかもそれはF厩舎にいたころの話で、その時は惨敗を喫していた。 またアメリカの通常のトラックでは、2000メートルを走るのに4つのコーナーを回らなければならないのに対し、ベルモントの外周は2400メートルもあったため、SはHに、このトラックではふたつのコーナーだけで勝負することになるだろうと警告した。
シービスケットの武器のひとつは、コーナーでのスピードだった。 コーナーが半分に減れば、馬は強みのひとつを奪われてしまう。
この条件でマッチレースを実現させても、Lに譲歩しすぎたせいで、シービスケットは勝ち目をなくす可能性が多分にあった。 あまりにも思い切った方策である。

だがHはこれが残された最後のチャンスだと思っていた。 電話口でSは、うつと唾をのんだに違いない。
Hのやり口は巧妙で、簡単には拒絶できない状況をつくり上げていた。 まさかHがこんな条件を出すとは夢にも思っていなかSはHの術中にはまった。

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